グレタ・トゥーンベリを生んだ国から発信される今の時代への問いかけとアーティスト・センスが響き合った作品!
美しく清廉としたサウンドと切実なメッセージが込められた、注目の本格デビュー作!!
スウェーデン第二の都市ヨーテボリ(Göteborg)を拠点とするヴォーカリスト、サラ・アルデンの大器をうかがわせる本格的なデビュー作。経歴から言えば、“新星”のサラは、2022年にミニ・アルバム(EP)『A Room of One’s Own』をリリース。5トラックのスタンダード・ナンバー(“Very Early” “Nature Boy” “Moon River” “Georgia on My Mind”2テイク)を連ねた歌の世界はスウェーデンを背景にした空気感と、アレンジメントの妙によって、特別な存在感を印象つけた。正確な歌唱はもちろんのこと、アメリカを発祥とするスタンダードを清廉な響きと広がりをもって奏でるセンスのよさはアルバム全体から伝わった。
そして、登場したのが、この作品となる。エレピの響きに導かれた透明感あふれる歌は、ゆったりとして、呼吸ひとつひとつが、美しく、聴く人の心を振るわせるものがある。彼女のメンターの一人は、スウェーデンが誇る巨匠、アンダーシュ・ヤーミーン、目標であり、大好きなアーティストの筆頭はノーマ・ウィンストン。ECM界隈からの影響力の大きさもうかがわせる。またグレッチェン・パーラト、自国の先輩リーナ・ニーベリ、ティグランからもインスパイアされたと語るところには、コンテンポラリー・ジャズの脈々とした流れを感じさせる。自在なヴォーカリーズ、時にアクロバティックで、スケールの大きな歌唱は実力の証でもある。また、バンドのメンバーとは、ほぼ年齢も一緒で、ベースのダニエル、ピアニストのアウグストは、学生時代からおよそ10年、活動をともにしている信頼の仲間という。オリジナルはもとより、5つのスタンダードも鮮烈。自分たちの感性を発揮したアレンジにも、豊かなイマジネーションが宿るが、お互いの音楽をリスペクトする仲にあって、演奏のセンスも繊細そのもの。ここに、この3人でしかできない決定的な音楽が完成したといえそうだ。
しかし、同時にこの作品で語られるべきものがある。彼女のシンガーとしての主張である。タイトルには『There is no Future』。それは彼女の問題意識から名付けられたものになる。「“この世界は将来どうなっていくのか?”それが、このアルバムの音楽を制作する時の唯一の考えだった」とSNS上でも語るサラ。彼女は、2024年の今、渦巻く地球環境問題等に、憂いながらも、紛争や苦痛がない世界を切望し、作品に思いを投影させている。そして、そのメッセージは、ラスト・ナンバーの“この素晴らしき世界(What a wonderful World)”にも現れる。静けさの中に鳴り響くピアノとヴォイスによる音空間は一聴穏やかにあって、ここでは、要である“What a wonderful World”の詩が意図的にたびたび省かれる。これは、“世界が”ほんとうに素晴らしいと語れるかどうか、みんなで止まって考えたいという主張だという。つまりは・・・この楽曲の成立時の問題への再びの問いかけであり、デビュー作にして、挑戦的な表現をラストまで貫いているのだ。
作品がその前のEPに比しても、スケールが大きく、胸を突き刺すのは、そんな思いがあるからだろう。現実を見つめる視線が徹底しているからこそ、彼女の声は強さとともに優しく、繊細になる。闇の中にさす光のように、たとえば”Over the Rainbow”に響くのは、その光輝く美しさのようだ。
この今の時代を生きる多くの人々にとって、体験したことのない、混迷の世の中、地元スウェーデンには、グレタ・トゥーンベリという存在も。最高に美しく、辛辣さと切実なメッセージも込められた一作。同時にこの作品を制作することで希望を見出したとも語るサラ。彼女のこの先の表現も最高に楽しみだ。
サラ・アルデン (vo)
アウグスト・ビョーン (p)
ダニエル・アンデション (b)
Guest:
マーリン・シェルグレン(harp)
ユーハン・ビョークルンド(ds)
ハンネス・ベンニク(sax)
Recorded by Johannes lundberg at Studio Epidemin on March 20,24.28 2023
01 | There Is No Future | 5:03 |
---|---|---|
02 | Misty | 5:38 |
03 | Someday My Prince Will Come | 4:33 |
04 | I Would Only | 4:11 |
05 | Somewhere over the Rainbow (for Sven-Olof) | 4:05 |
06 | To Let Go | 5:05 |
07 | In Between | 0:46 |
08 | I Don’t Know | 5:44 |
09 | They Can’t Take That away from Me | 3:59 |
010 | What a Wonderful World | 7:04 |
total time 45:53
サラ・アルデンは、スウェーデン、ストックホルムの北西約100kmに位置する、田園風景が広がるHedåker出身のジャズヴォーカリスト。彼女の音楽の旅は、8歳のとき、地元の文化学校でピアノに没頭したことに始まった。しかし、すぐ後には、ヴォーカルの指導を受けたことで歌うことへの情熱に気づき、ピアノを続けるとともに、歌を専門とした。12歳のときに、地元のユースビッグバンドのスカウトを受け、13歳で地元のビッグバンドで演奏。これがジャズの伝統に深く根ざした経験となり、実践と知識を育んだ。
16歳のとき、彼女はヴェステロース(Vasteras)の音楽高校でさらなる教育を受け、23歳のときにLunnevads Folkhögskolaで2年間のジャズヴォーカルプログラムに参加。同時に彼女はストックホルムの王立音楽大学でジャズ理論を学び、ヨーテボリ(Göteborg)のアカデミー・オブ・ミュージック・アンド・ドラマでボーカルの学士号と修士号双方を取得した。また、音楽以外で、ジェンダー研究に興味をもち、ヨーテボリ大学ではジェンダー実践の修士号も取得した。
彼女の音楽は、スタンダード的な歌唱はもとより、誠実さと好奇心を源泉に、リスナーをインティメイトな空間に招き入れるとともに、今の時代を生きる問題意識を投げかけ、提示して見せる。スウェーデン・ジャズ界の巨匠アンダーシュ・ヤーミーンをメンターとして仰ぎ、アンダーシュは、アーティストとして成長する過程において、彼女の制作や活動をバックアップした。長年の憧れのヴォーカリスト/アーティストはノーマ・ウィンストン。作曲は、グレッチェン・パーラト、ティグラン・ハマシアン、自国の先輩、リーナ・ニーベリなど、コンテンポラリーなフィールドで独自の世界を切り拓くミュージシャンからインスピレーションを得ている。これらの背景とともに、スウェーデンのトラディショナル・ミュージックとアメリカのジャズのクラシックを融合したサウンドは、すでに彼女の力強い表現となっている。
2022年に発表した『A Room of One’s Own』は、ミニアルバム(EP)でありながら、高く評価された。2024年3月、スウェーデンのNaxos Prophoneからデビューアルバム『There Is No Future』をリリース。スウェーデンからヨーロッパ、世界に羽ばたく時を迎えている。