日本ジャズ界の至宝、中牟礼貞則、渋谷毅による唯一無二の演奏を収めたライヴ盤。収録は、東京・国立のライヴハウス NO TRUNKS。2017 年 7 月にマスター村上寛の企画によってデュオとして初演、5 年あまりの時を経て、録音された。
2 人の出会いは 1962 年頃とのこと。当時はジャズの現場をはじめ、数々のスタジオ・セッションで顔を合わせたようだ。作品としては菅野邦彦のライヴ作『The Shadow Of Your Smile』(1976 年)や沖山秀子の『Summertime』(1981 年)などが挙げられる。さらに中牟礼が親友であった高柳昌行と共に住んでいたという家と、渋谷の実家が近かったという私的な交流もあった。アメリカから伝わって来たジャズやボサノヴァへの思い、研究、そしてそれぞれの活動や表現は、日本のジャズの歴史そのものといっていい。
そして半世紀を超えた 2023 年、後進のアーティストから大きなリスペクトを集めつづける 2 人―90 歳の中牟礼貞則と、83 歳の渋谷毅による演奏が収録された。
演奏は、中牟礼による選曲を中心にして、スタンダードに、エリントン、ジョビンと有名な曲ばかりながら、ここには、積み重ねてきた時が滲む音楽がある。
オープニングの、ジム・ホール作曲による 12 小節のシンプルなブルースのなんと渋いこと。強弱、ニュアンス豊かなギターのピッキングに、“ここぞ!”というタイム間で絡むピアノのフレーズは、音数はわずかにして、この 2 人でしか奏でられない説得力がある。そして、スウィンギーなリズムに滑り出すソロが、なんとも粋だ。
渋谷が切実な思いをいだくエリントンのナンバー(M4)や、ボサの中では別格な存在というアントニオ・カルロス・ジョビンの楽曲(M5)で、淡々としながらも麗しいピアノを弾けば、中牟礼は十八番である M6 をスウィンギーに好演。また、あの銀巴里セッションでフィーチャーされた M3 も 4 ビートがなんとも心地よい。
そして、聴き逃せないのが、M2 だ。“過ぎし夏の思い出”と邦題もつくこの曲は、渋谷がピアノとオーケストラの編曲を担当した高柳昌行の『ジャジー・プロフィール・オブ・JOJO』にも収録され、当時多くのアーティストが演奏した楽曲。また、2 人にとっては思い出深い、リー・コニッツ・スタイルの伝説的な名サックス奏者、渡辺辰郎が得意だったのだそうだ。そんなありし日も実際振り返っていたのだろうか…イントロから奏でられるピアノの美しさ、また 2 人の音の語らいは、ノスタルジーと情感があふれる名演となって、収録された。
長い道のり、職人的に音楽の美しさを求めて来たアーティストの味わい。
それは、音楽だけでなく、姿、佇まいもあまりにかっこいい。ジャケット写真のほか、渋い写真をデザインした作品は、パッケージとしても魅力的に仕上がった。
ストリーミングが主流となった時代に“音楽とは? 作品とは?”とも問いかける作品の完成だ。
中牟礼貞則 (guitar)
渋谷毅(piano)
【録音】
2023年4月15日 東京・国立NO TRUNKS 録音
| 01 | ビッグ・ブルース Big Blues (Jim Hall) |
5:54 |
|---|---|---|
| 02 | ザ・シングス・ウィ・ディド・ラスト・サマー 過ぎし夏の思い出 The Things We Did Last Summer |
9:07 |
| 03 | イフ・アイ・ワー・ア・ベル If I were a Bell (Frank Loesser) |
7:28 |
| 04 | イン・ア・センチメンタル・ムード In a Sentimental Mood (Duke Ellington) |
8:08 |
| 05 | サムワン・トゥ・ライト・アップ・マイ・ライフ Someone to Light Up My Life (Antonio Carlos Jobim) |
6:30 |
| 06 | カム・レイン・オア・カム・シャイン Come Rain or Come Shine (Harold Arlen) |
6:29 |
| 07 | ハウ・ディープ・イズ・ジ・オーシャン How Deep is The Ocean (Irving Berlin) |
7:14 |
total time 51:07